「・・・ホント、お前は素直じゃねえよな」


「なによ、銀ちゃんのばか!」







電話越しに最後に聞こえたのは、銀ちゃんのため息たっだ。

あぁ、いつもこうだ。

どうして素直に、会いたい、の一言が言えないんだろう。

仕事なんだから仕方ないじゃない。

銀ちゃんだって、ごめんな、仕事が終わってから会いに行くから、って言ってくれたのに。

別に無理してこなくていいよなんて、ホント、自分でも可愛くないって思うよ。

ばか。









そうして連絡することもできないまま1日が終わろうとしていた。

自分から謝らなきゃ、頭では分かっているのにメールを打つこともできないなんて。

銀ちゃんと二人で食べるはずだった鍋も、今はもうとっくに冷めてしまっている。

一人で食べたっておいしいはずがない。

もう諦めて寝てしまおう、そう思って布団に入ろうとしたとき、アパートの階段を駆け上ってくる音が聞こえた。

「おい〜、まだ起きてんだろ?寒いから早くあけて、死んじゃうから〜」

いつも通りの銀ちゃんの声。

それが逆に自分がすごく悪いことをしてしまったように思えて、目頭の奥がツンとした。










「・・・ぎんちゃ・・・」

謝らなくちゃ、早く。

そう思ってなんとか鍵をあけると、そこには疲れた顔の銀ちゃんが立っていた。

「あ〜あ、なんでお前が泣いてるわけ?泣きたいのはこっちよ?こんな時間までこき使われて、楽しみにしてた約束はケンカでつぶれてよぉ」

「うん・・・」

ほら、ごめんって。

言わなきゃ、なのになんで口が動かないの。

うつむいたままの私を見て、銀ちゃんが小さくため息をついたのが聞こえた。

呆れられて当然だ、こんな意地っ張り。

「・・・ほら、顔上げろ」

玄関の向こう側にいた銀ちゃんが一歩近づいてそういった。

その声が優しくて、私はまた泣きそうになる。

「おいで」

顔をあげれば、少しからかうような笑顔の銀ちゃんがいた。

その言葉と顔は反則だよ。

逆らえるわけがない。

「・・・ごめんね、銀ちゃん」

「よしよし、やっと素直になったな」

「ずるい、確信犯・・・」

「だってこうでもしないと。誰かさんは意地っ張りだから」
















ギュッと抱きしめてくれた銀ちゃんの服は冷たくて、私は同じように冷めてしまった鍋のことを思い出した。

「さ〜てっと・・・鍋も俺も、早くあっためて」

「・・・ばか」




「おいで」確かに恋だったサマより