「ちわ〜、総悟で〜す」
「・・・」
なんともすっとぼけた挨拶をして、その子は今日もやってきた。
「あのね、総悟君。昨日も言ったけど、うちに来られても困・・・」
「いやぁ〜、腹減って死にそうでさァ」
玄関のドアを開けると、人の話に全く耳を貸さず、総悟君は当たり前のように靴を脱ぎ、迷うことなくリビングのソファに腰掛けた。
彼と出会ったのはほんの1週間前、激しい雨が降る夜だった。
うちの前で倒れていた彼を放置するわけにはいかず、部屋に運んで看病したことから妙に懐かれてしまったのだ。
初めのうちは弟ができたみたいで可愛いな、なんて思っていたけれど、一応こんな私でも女で、ましてや彼は未成年の男の子だ。
こんなこと、いつまでも続けているわけにはいかない。
今日で最後にしなければと思っているのに、いつもなんだかんだで彼に負けてこうして夕飯を作っている。
一体どうしたらいいんだろう。
コンロの火をぼんやりと眺めながらそんなことを考えていると、ふと、背後に人の気配を感じた。
「ひゃあっ?!」
「おっと、暴れると危ねーですぜィ」
後ろから回された腕は、簡単に私の体を包んでしまった。
「そ、総悟君?!放して?」
「ねえ・・・今、何考えてたんですかィ?」
耳のすぐ傍で聞こえる彼の声は、いつもより大人びていて、まるで麻酔のように私の体は動かなくなる。
「・・・ほら、そろそろこういうのやめにしない?もう飽きてきたでしょ?」
精一杯の平静を装って、私は彼にそう告げた。
こんなことでドキドキして、これじゃあまるで・・・
「ホントにそう思ってるんですかィ?俺がただ懐いて遊びに来てるって」
くすっ、と彼が笑った振動ですら、こんなにくっついていれば伝わってきてしまう。
体温が尋常じゃないくらい上がっているのが自分でもよくわかった。
「・・・仕方ありませんねィ。それじゃあ俺がちゃんと教えてあげまさァ」
まずい。
直感的にそう思った。
ここから先を聞いてしまったら、私はきっともう戻れない。
「大丈夫だから!わかってるから!」
わたわたともがいたところで、今更逃げられるはずもなくて。
ギュッと更に強く抱きしめられて、彼は耳元で囁いた。
「好きだ」
「逃がしませんぜィ?」
「好きだ」確かに恋だったサマより