赤黒く淀んだ俺の世界。

他人なんて信じられない、信じられるのは自分だけ。

殺らなきゃ、殺られる。

それが生きることの全てだった小さな俺の世界に、光をさしてくれたのは松陽先生だった。

この人についていけば、俺の世界は変わるのだろうか。

今思えば、そんな思いを抱かせてくれたその瞬間から、きっと俺は変わっていたんだろう。











教室でなにをするわけでもない。

ただぼんやりと皆の声を聞いて、笑ったり、泣いたりする様子を見ていると、俺にはそういう普通のことが、決定的に欠けていることを思い知った。

どうやったら、あんなふうになれるのか。

いや、俺はきっとああなることなんてできない。

そんな自問自答を繰り返しながら無意味とも思える時間を過ごしていたある日、ぼんやりと縁側に座っていると、突然後ろから声がした。

「おい、貴様!一体何のためにここにいるのだ!」

振り返れば、俺をまっすぐ見据える瞳。

こいつは確か・・・、

「・・・ヅラ?」

「ヅラじゃない!桂だ!」

「・・・で、何?」

「俺が聞いているのだ!毎日毎日寝てばかり、起きていてもぼんやりと遠くばかり見おって!何のためにここにいる?」

目の前で怒りをあらわに俺に問いかけてくるコイツを見て、俺の中に不思議な感覚が湧きあがる。

そうか、こんな風に俺に感情をぶつけてきた奴は初めてなんだ。

みんな俺を、どこか怯えた目で見ていたから。













「わからない・・・」

「何?」

「・・・わからないから、ここにいる」

そう答えれば一瞬奴は驚いたような顔をしたが、すぐにまた怖い顔をして俺の腕を掴んだ。

「ならばこい!俺が基礎から教えてやる!」

「・・・え?」

俺の返事なんてお構いなしに、ずるずると教室まで引きずられていく。

おせっかいな奴だと思ったが、それでもなんだか、嫌な気はしなかった。

「全く、高杉といい貴様といい・・・先生は甘いのだ!」

連れて行かれた教室には、ヤル気がなさそうに寝そべる目つきの悪い男がいた。

「・・・なんだよヅラ、そいつまで連れてきやがって。俺は勉強なんて興味ねーかんな」

「ヅラじゃない、桂だ!お前らそこになおれ!」








それからいつしか、俺達は腐れ縁で結ばれちまった。







そしてお前に出会ったんだ、











先生がお前を初めて連れてきたとき、その目はどこか虚ろで、まるで少し前までの自分を見ているようだった。

それでいて俺とは違う、少し力を加えたら壊れてしまいそうな危うさが見えて。

俺の中に生まれた、初めての感情。









・・・小さくてもろいこの存在を守ってやりたい。









無意識に差し出した掌に恐る恐る重ねられた、小さなその温もりを壊さないように握りしめて、









俺はあの日、初めて心から、誰かを守りたいと思ったんだ。





















冷えた指先に想いを託して







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拝啓、きみ番外編という形ですが、私の勝手なねつ造村塾編(笑)。

先生やヅラや高杉から人間らしさを貰っていった銀さん。

自分に似ていて、でも自分よりはるかに弱い存在に出会って初めて、誰かを守りたいって思ったらいいなあ、なんて妄想です。

でもこれは、主人公が好きというよりは、もう愛みたいな感じだったんじゃないかと。

タイトルは確かに恋だったサマより。