「ありがとう、晋助。・・・忘れないよ」
そう言って泣きながら笑ったお前の顔を夢に見る。
いつまでも鮮明に残る記憶。
忘れられないのは、お前を手放した罰なのか?
俺の中に巣食う獣が、人間らしい感情なんてとうに食いつくしているはずなのに。
大切なものを奪われた憎しみ。
大切なものを守ることができなかった後悔。
大切なものを失った絶望。
そしてそれを何度も繰り返す恐怖。
そんなものを再び味わうくらいなら、
・・・こんな世界など壊れてしまえばいい。
「銀ちゃ〜ん!!ヅラが来たアル〜!!」
大型の台風が江戸に接近しています、という結野アナの天気予報を見ていると、神楽の大声がそれを止めた。
「あ〜ん?ヅラ?また面倒くせえ奴が来やがったぜ」
「ヅラじゃない、桂だ」
相変わらずの台詞を言いながら、ヅラは足早に中へと入ってくる。
・・・こいつがわざわざ一人で万事屋を訪ねてくるなんて珍しい。
何より、部屋へと入ってきたコイツの雰囲気がいつもと違うことに俺は気付いた。
「で、何?何の用〜?」
わざと茶化して聞いてみれば、ヅラはそんなことはお構いなしに言い放った。
「・・・のことだ」
__あの日、は俺達のもとを離れ、松陽先生の旧友のもとへと向かった。
そこは戦火からは程遠く、のどかな田舎。
これなら、の身は安全だろう。
この戦争が終わったらきっと迎えに行こう。
例え誰かが欠けたとしても、生き残った奴が必ず。
そう3人で誓ったはずだった。
だがそれから一月もしないうちに、その家が襲われ、全焼したとの知らせが入った。
攘夷派に恨みを持つ何者かによる犯行だったらしい。
との連絡は途絶え、後にその家から若い女の死体が発見された、という報告があり、の生存は絶望的だった。
やり場のない怒りや絶望を、俺たちは戦いにぶつけるしかなかった。
それでも心のどこかで、まだアイツは生きているんじゃないかと思っている自分がいた。
もしかしたら・・・
そう思いたかったのは、そうしなければ、あの日アイツをいかせてしまった自分を許せなかったからかもしれない。
先の見えない戦いの中に、僅かでも光を見ていたかったのかもしれない。
でも今は・・・
「皆、台風が近づいているから、明日からしばらく学校はお休みです。危ないから家で大人しくしているんですよ」
「「「はぁ〜い!」」」
「・・・先生、ぼくは?」
「心太くんは、私とここにいましょうね」
「・・・うんっ、先生」