右足を骨折してるが、命に別条はない。

熱もしばらくすれば下がるだろう。

そう告げて、医者は部屋を後にした。

俺がを連れて船へ戻る途中、うまい具合に万斉と会い、そのまま奴の見つけてきた宿へと向かった。

案内されたのは小さな宿だったが、部屋は割と綺麗にされていて、怪我人を寝かせておくには十分だった。

「では、拙者は別の部屋で休むとするでござるよ」

「ああ。色々と有難うよ」

「珍しいでござるな、晋助からそんな言葉を聞けるとは」

ふっ、とその言葉に笑みで返せば、万斉はひらひらと手を振って部屋を後にした。

全く、喰えない奴だ。

そんなことを思いながら奴の背中を見送れば、後ろからガキが話しかけてきた。

「ねえ、兄ちゃん・・・」

「あぁ?なんだ?」

「先生、もう大丈夫なんだよね?」

「さっき医者が言ってたろうが。心配あるめぇよ」

そう言ってポンと頭を叩いてやれば、そいつはようやく安心したようで、満面の笑みを俺に向けた。

「ありがとう、兄ちゃん」

「あぁ」











こんな台詞を面と向かって言われたのはいつぶりだろうか。

ふとそんなことを考えて辿り着いたのは、すぐそこの布団で眠るとの記憶だった。

死んだとばかり思っていたのに、なぜ生きていたのか。

生きていたのなら、なぜ俺たちに連絡をよこさなかったのか。

・・・・どうして今頃になって、俺の前に現れたのか。

言ってやりたいことは山程あるのに、コイツが今ここで眠っているという事実が、そんなことはどうでもいいと俺に思わせている。

静かに窓際に座り、その様子を眺めているだけで十分だった。

「おい、ガキ」

「・・・ガキじゃないよ、心太だ」

「・・・なあ、心太」

「なに?」

「そいつは・・・、はどんな先生だ?」

何となくそう問いかければ、奴は少し考えた後、嬉しそうに答えはじめた。

「うんとねえ・・・強くて優しい先生だよ、怒るとすっごく怖いけど。僕はきっと先生がいなかったら・・・」






















それから心太はのことや自分のことをしばらく話し続けていたが、さすがに疲れていたのだろう。

の布団の傍に座っていたのが次第に横になり、いつの間にか眠っていた。

そんな様子を見て、自然と体はそちらへと動く。

まさか俺が、こんなことをする日が来るとはな。

ため息とともに可笑しさがこみ上げる。

そっと心太を抱えあげ、別の布団に寝かせてやれば、気持ち良さそうに寝がえりをうっていた。

しばらくそんな姿を見ていたが、の苦しそうな声が聞こえてきて、俺はの傍に座り直した。

まだ熱が下がらないせいで苦しいのだろう、赤い顔には珠のような汗が浮かんでいる。

額に置かれた布を取り替えてやっても、大した意味を為さなかった。

「・・・苦しいか?」

返事は返ってくるはずもない。

そっと頬に手を添えると、俺の手が冷たくて気持ちよかったのかは自分からそれにすり寄ってきた。























なあ、

お前は今の俺の姿を見たら、どんな表情をする?

泣いて、それから怒るか?

いや、もしかしたらそんな事すらしないで俺の前から去ってしまうかもしれない。

女々しい感情が自分を支配している事実に気がつけば、俺はもう、自嘲するしかなかった。























それでもいい。











どうか、今だけでいいから。













笑って俺を許してくれないか。









































そっと唇を重ねれば、伝わる熱さえも愛おしかった。