24:00 江戸 歓楽街 
「・・・ここか、トシ。天人が違法に営業してる店っていうのは」

「ああ。山崎に探らせたが、いい噂の一つも出てきやしねえ。働かされてるやつは大概どっからか攫われたり、売り飛ばされてきたりしてるみてーだ。」

真選組局長 近藤勲、副長 土方 十四郎。

二人の周囲には異様な緊張感が漂っていた。

「・・・俺達が守るこの町で、堂々とそんなことをさせていたなんてな。」

「なぁに近藤さん、それなら俺達の恐ろしさ、奴らにイヤって言うほど思い知らせてやるだけでさぁ」

「そうだな、よし!総員配置につけ!一人残さず捕まえるんだ!!」





丁度同じ頃、そんなことが地上で起こっているとは夢にも思わない彼女は、真っ暗な闇の中、なぜ自分がこんなところにいるのかを必死に考えていた。

ひんやりとしたコンクリートの床。

灯りがないせいで周りの状況がいまいち掴めないが、唯一の出入り口だと思われる鉄の扉はずっしりとその場を動こうとはしなかった。

「・・・えっと・・・確か会社の帰りに車を運転してて、それで・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・・・・・もしかして、死んじゃった?!嘘!!そんなはずは・・・」

自分の記憶を必死にたどってみても、どういうわけだかそこから先のことが全く分からなかった。

一体ここにきてどのくらいの時間がたったのだろうか。時計なんかあるわけもなく、周りの様子からも窺うことはできない。

「大人しくしてるしかないか・・・」

ぽつりとこぼした言葉も、真っ暗な闇の中に吸い込まれてしまう。

そしてなぜだか急に恐怖がこみ上げてくるのだった。

自分を守るように膝を抱え、この状況が変わるのを待つしかなかった。

「誰か・・・助けて・・・」













第一話














コツン、コツンとこちらに向かってくる足音が聞こえて、は慌てて扉へと向かった。

「あの!!すみません!!助けてください!!」

敵なのか味方なのかはわからない。でもこのままの状況が続くことにはもう耐えられなかった。

「お願いです!!ここから出してください!!」

なんとか扉の向こうへ届くようにと精一杯の声を張り上げると、外からようやく男の声が聞こえた。

「待ってろ!今出してやる」

一瞬安心したものの、その声は乱暴で、鍵をあける様子もどこか苛立っているようだった。

なんだか、いやな予感がする。

「さあ、こっちへ来い!」

急に視界が明るくなったせいでまだ何もみえないでいるの腕を、男は強引に掴み部屋から引きずり出した。

「痛っ」

その衝撃で激しく床にたたきつけられながらも、はなんとかその男の姿を確認した。

がっちりとした体に大きな口。体は紫色で、どう考えても人間ではなかった。

「ひぃっ?!妖怪?!」

「なんだと?」

思わず口にしてしまった言葉を必死に後悔した。

怒ったその男(?)は、力任せに倒れていたを掴みあげたのだ。

「地球人の分際で、天人を侮辱するとは!そのようなこと、店では二度と口にするなよ!しっかり働いて貰うからな」

・・・地球人・・・天人・・・店・・・働く?!

「ちょっ、一体どういうことですか?なにがなんだか・・・」

「だまれ!おまえはただ客の相手をすればいいんだ!何をされても逃げるなよ、どうせ逃げられはしないんだからな」





男の言葉はひどくすんなりと届いた。

・・・ああ、ここはそういう店で、私はどういうわけかそこに連れてこられてしまったんだ。

頭のどこかで冷静に状況を理解している自分がいた。そしてこのままいけば自分がどうなってしまうのかも。

なんとしても逃げ出さなくては。

「放して!!嫌っ・・・こんなの、何かの間違いよ!」

そう言って男の手に思いっきり噛みつくと、なんとか振り払い、は男と距離をとった。

「っ・・・貴様・・・、お前には一生店で働くか、ここで俺に殺されるかしか選択肢はない!さあ、好きなほうを選べ!」

「・・っ」

どうすればいい?唇を噛みしめ、必死にそれを考えてみるが何も浮かんでこない。

その時、唐突に人の気配を感じた。

「・・・残念ながら、おめーには俺にやられるって選択肢しかねぇ!!」

その声が聞こえたと同時に、轟音とともに目の前の男がuのすぐ横を吹っ飛んで行った。

「え・・・」

今の状況に頭が追いつかない。

助かったんだろうか、そう思ってあたりを見回しても、暗い建物の中では何が起こったのかわからなかった。







間もなく、こちらに向かって歩いてくる足音が聞こえて反射的に身がまえたが、そちらからは嫌な気配は感じらない。

そして、気遣うような声が聞こえてきた。

「大丈夫ですか?助けるのがおそくなってしまってすみませんでした。」

たった今、あの大男を吹っ飛ばした人物とは思えないほど優しいその人の声には聞きおぼえがあった。

「さあ、もう大丈夫です。一緒に行きましょう」

「嘘・・・」

暗闇の中、徐々に輪郭がはっきりとしてくるその人物を、は知っていた。







その黒い隊服と刀も、



一見ゴリラっぽく見えるけど、太陽のようなその笑顔も、



私は知っている・・・







「近藤 さん・・・・?」