「はぁ・・・」

ため息をついたのはもう何回目だろうか。

お昼時を過ぎた店は随分落ち着き、厨房は一人で大丈夫だから休憩しておいで、というお絹さんの言葉に甘えて店の裏の縁側に座ったものの、出てくるのはため息ばかり。

正直、こんなときに仕事があってよかったと思う。

何かしていないと時間が経つのが遅すぎて、私は今頃発狂していたんじゃないだろうか。

さっきまで顔を出していた太陽が雲に隠れてしまうと、なんだか急に寒く感じられた。

そんなときに聞こえてきたのは、私のよく知る人の声。

「よぉ、今休憩中か?」

土方 十四郎、真選組の鬼の副長と恐れられる男。

タバコをふかしながらこちらへと歩いてくる姿からは、そんな雰囲気は感じられない。

「・・・土方さん。いつからいたんですか」

「そうだな、お前が外に出てきたあたりか」

「なっ?!最初からいたんですか?なんですぐ声かけてくれなかったんです?!もしや覗き・・・」

「ばっ、違ぇよ?!お前があんまり深刻な顔してっから、声かけるタイミング逃したんだろうが!」

「え・・・」

マヨラーで、瞳孔はいつも開き気味だけど、その本質は、きっとすごく優しい人。














もう寝よう、そう思って布団に入ると、枕元の携帯が派手に光り始めた。

こんな時間にかかってくる電話なんてきっとろくなもんじゃない。

そう思って携帯を手に取ると、ディスプレイにはお絹さんの文字。

慌てて出ると、聞こえてきたのは元気のないお絹さんの声。

どうやらお絹さんはぎっくり腰になってしまったらしい。

やっとオープンした定食屋も、1週間はお休みだね、という残念そうなお絹さんの声に、私はそのままそうですか、ということはできなかった。

「私にできる限りのことをさせてください。なんとかお絹さんの分も頑張りますから」

そういうと、初めは一人じゃ無理だよ、と断られたけれど、私の気迫に押されたのか最後には了承してくれた。

「ただし、あんまり無理するんじゃないよ?あんたは頑張りすぎるところがあるからね」

「はい。ありがとうございます」
















そうだ。

今思えば、これがすべての始まりだった。












「おい、いつまでぼーっとしてる」

隣から聞こえた声にハッとすると、そこには呆れたような土方さんがいた。

「・・・何考えてた?」

「いえ、ちょっと。昔のことを思い出してただけです」

はぐらかすように笑った私を見て、土方さんは、そうか、というとそれ以上は何も聞いてこなかった。

彼のこういう所が、私には心地よかった。

だからきっと、なんでも素直に話すことができる。

「そういえば、土方さんは私に何か用事だったんじゃないですか?」

「・・・いや、まあちょっとな」

珍しく歯切れの悪い土方さんの様子を見て、私は何となくその先を想像することができた。

「・・・銀ちゃんのことですか?」

そう尋ねれば、切れ長の瞳がゆっくりとこちらに向けられる。

「・・・ああ。まだ、帰ってきてねーんだろ?」

「はは、なんでもお見通しなんですね・・・」








精一杯軽く返したつもりなのに、私を見る土方さんの眼は心配そうで。

ああ、やっぱりこの人には隠し事はできないな、と思った。